ビジネスの現場では絶えず「交渉」が行われています。どんな職種・業種・業界であっても交渉力はビジネスパーソンに必要不可欠なスキルセットといっても過言ではありません。
しかし、特に若手を始めとしたビジネスパーソンは交渉に苦手意識を感じていることでしょう。また、中堅クラスのベテランの方でも、いつも交渉に成功するわけではないと思います。
交渉はその業界や職種・ビジネスの慣習や相手の思考を読み取る力など様々なスキルが必要です。そのため、小手先のテクニックだけで交渉ごとに100%強くなることは不可能です。
しかし、「形から入ること」もときには重要です。交渉ごとに強いビジネスパーソンが意識的・無意識的に実践している心理テクニックを学ぶことは、交渉のスキルを向上させる近道になります。
今回は、交渉が苦手と感じるビジネスパーソンに向けた、交渉で使える心理テクニックを6つご紹介していきます。ぜひ参考にしてください。
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交渉で活用できる6つの心理テクニック
1 相手の話を主軸にする
交渉はディベートではありません。交渉は、相手とWin-Winの関係を結ぶことと、ポジショントークを織り交ぜる絶妙な距離感をうまく保つことが重要になります。
そのためには、「相手の話を主軸にして会話を進ませること」が重要になります。
不思議なことに、相手の話を主軸に会話を始めると「聞き上手な人」という印象をもたれることが多いのです。
割合としては、「相手の話:あなたの話=7:3」を意識します。7:3の法則はビジネス法則として有名ですが、おおよそこのくらいの割合であれば構いません。
特に、会話があまり弾まない傾向にある寡黙な相手に対しては、こちらから一方的に話してしまいがちですが、この割合を意識することで相手の話を引き出すことができます。
2 相手の予想を上回る
「他人に対する期待」を上手にコントロールすることも、交渉の場では非常に重要な要素になります。
あなたはきっと人に期待して喜んだことよりも失望したことの方が多いはずです。
「思ったよりも助けてくれなかった」「思ったよりも性格がよくなかった」など、他人に対する期待はほとんどがマイナスになって返ってきます。
しかし一方で、他人に対する期待というものは少しだけ予想を上回るだけでプラスに転じやすいものなのです。
- 納期限よりも1週間早く納品してきた。
- 通常3日ほどかかる仕事を1日で完了させてきた。
- 依頼した成果物のクオリティが最初に話していたものより高かった。
- メールでのやりとりとは異なり非常に親切で接しやすい人だった。
面白いことに、この相手からの期待はあなた次第で低く設定し、予想を上回りやすくしておくこともできます。
たとえば「実際のスケジュールより長めの納期を設定しておく」といったことです。
相手の予想を少しずつ上回るだけであれば、日常的に意識して準備しておくだけでできることがたくさんあります。
3 ミラーリング
有名な心理テクニックに「ミラーリング」と呼ばれるテクニックがあります。
ミラー(鏡)という言葉が示すように、相手との会話中に相手がとる行動をさりげなく真似する行動が「ミラーリング」になります。
たとえば…
- 声のトーン
- 口調
- 語彙・口癖
- 姿勢
- 目線
- 呼吸
- 腕・足の動き
このように、相手が無意識に行なっている行動を真似ることで、相手があなたとの間に信頼関係を築きやすくなります。
あなたが悲しくて声に抑揚がないとき、一緒に悲しんでくれる友達の姿を見て安心した記憶があるでしょう。これと同じで、相手の行動に波長を合わせることで安心感を与えることができます。
ミラーリングは非常に有名なテクニックです。そのため、反対にあなたがミラーリングされていることに気付く可能性があります。
話の内容に集中し信頼感をコントロールされないように注意しましょう。
4 ともに何かを達成する
人と人が信頼関係を結ぶ最も大きなきっかけは、「困難をともに乗り越えること」でしょう。あなたの実体験から考えても、信頼感を醸成できる機会はそういったシチュエーションに限られています。
交渉相手にも、この「何かを達成すること」をテクニックとして活用することができます。
大掛かりなことである必要はありませんが、ちょっとしたことを相手にお願いし、サポートしてもらったり、協力して何かに取り組んだりする機会を作ると交渉もうまく運びます。
たとえば…
- ランチの店を一緒に探す。
- 書類に記入する作業を手伝ってもらう。
- 悩みの相談に乗る。
また、雑談の中で「相手が知りたいことや困っていることを探し解決してあげる」ことを意識しておくと、「それなら私がお手伝いしますよ」と協力することができます。
交渉内容とは別軸で相手へ「借り」を作ることができれば、返報性の原理を活用して相手に何かをしてもらうことも容易になります。
5 証拠を提示する
「証拠」というと、相手の矛盾点を鋭く突く物や情報を指すと思いがちですが、そうではありません。交渉ごとを行うにあたって、相手があなたの話を信じるように伝え方を工夫することです。
証拠には様々な種類がありますが、要は「具体的に話すこと」が重要になります。
たとえば、「今回の新商品が売れた理由は○○です。」と伝えるよりも、「弊社のマーケティング部門の○○によると、新商品である「○○(商品名)」が前年同月比○%で売上を大きく伸ばした理由は〜です。」と具体的に話すことです。
「そんなくどくなんどもいう必要ないだろう」と思ってしまいます。
しかし、口頭での情報伝達には指示語が必要以上に多かったり、相手の前提知識・情報を踏まえられていなかったりと不確かなコミュニケーションになってしまう欠点があります。
会話中で数多く証拠を散りばめたほうが効果があるのです。
6 選択肢を調整する
最後は、最も具体的な交渉テクニックです。
交渉では必ず結論が「YES/NO」の決着となりますが、選択肢は見えにくくすることも可能です。具体的には、自分が選んで欲しい方向に選択を誘導することができます。
行動経済学者であるダン・アリエリーの著書『予想通りに不合理』では、雑誌購読プランの例をもとに、人の選択肢がいかにコントロールされているかを意思決定の錯覚として紹介しています。
あなたは、雑誌を購読するならどれを選ぶでしょうか?
- オンライン購読:$59/year
- 雑誌の定期購読:$125/year
- オンライン + 雑誌の定期購読:$125/year
きっと、「オンライン+雑誌の定期購読」を選んだのではないかと思います。
アリエリー氏は上記の3つの選択肢のうちどの選択肢を最も多くの人が選ぶかを実験しました。結果は、3つ目の「オンライン + 雑誌の定期購読:$125/year」で、割合は84%です。
しかし一方で、実際に不要な選択肢として2つ目の「雑誌の定期購読」を抜いてもう一度同じ実験をしたところ一つ目の「オンライン購読:$59/year」を68%の実験対象者が選ぶという結果になりました。
ここからわかることはただひとつ、人は選択肢の中から「お得なもの」を選び、それを本当にお得なものだと考えてしまう”錯覚”を起こすのです。
あなたも、交渉ごとでは相手に「YES/NO」の選択肢で検討してもらうのではなく、数ある選択肢のうちあなたが選んで欲しい選択肢を「お得だ」と思ってもらえるような条件を提案しましょう。
まとめ
今回ご紹介した心理テクニックは、あくまでも交渉ごとで使うことができる小手先の技術・考え方でしかありません。
本当に交渉ごとにうまくなるためには、数々の経験と、そこから具体的に何を学べたかを自分で把握し、フィードバックループを回す必要があります。
しかし、まったく対策をせずに交渉の場に臨むよりも、いくつか使えるテクニックを学んでおく方が、成功確率も学習スピードも高くなるでしょう。
今回の記事をぜひ参考にしていただき、実際に交渉の場でテクニックを身につけてみてくださいね。