「議論」「ディスカッション」は、クリエイティブなシゴトや、タスクにおける意思疎通その他、あらゆる局面で必要です。
しかし、昔から「日本人は消極的だ」と言われているように、議論に対して苦手意識を持つ人は多いでしょう。建設的な議論をするためには、「議論の場数」を踏むことが上達のカギです。
でも、ただ単に場数を踏むだけでは、ただ失敗したり、「うまくいかなかったな…」と感じてしまうばかりで、適切なフィードバックを得ることは難しいのです。
そこで今回は、「議論」とはそもそもどんなものなのかをあらためて考えたうえで、論理学の知識を紹介し、「建設的な議論」をするための心構えを説明します。
Contens
そもそも「議論」とは何か?
議論の心構えを学ぶ前に、「議論」とは、具体的にどのようなことを指すのかを明確にしておきましょう。
当然ですが、議論は「口喧嘩」でも、「感情論のぶつけ合い」ではありません。そもそも、それでは何のために議論をしているのかも分からないでしょう。
議論の目的は以下の3つです。
(1)「共通了解」を得るため
「共通了解」とは、「コンセンサス」とも呼ばれます。意味は、「複数の人の間で共有される目的や概念」です。
私たちは、あるテーマや物事に関して、「話す」という行為をしないことには、他人が何を考えているのかを知る方法はありません。話すという行為をしなければ、私たちはそもそも何を伝えることも、協力して何かを営むこともできないのです。
(2)解決策を導くため
議論は、ある一つのテーマや議題に関する「解決策」を導くプロセスです。共通了解からスタートして、未来のことを話し合う。そういう意味で、議論は他人とある一つのものを積み重ねていく行為なのです。
ですから、「建設的な議論」というのは議論として”当然のこと”。しかし、それを忘れてしまっている人は結構多いですよね。そういった行為は議論ではなく、「詭弁」あるいは「強弁」と呼ばれます。
(3)弁証法的にものごとを進めるため
「弁証法」とは、ものごとを考えるうえで重要な一つの「型」です。その意味は、「ものの対立、矛盾を通して、それを統一する一層高い境地に進める方法」です。
たとえば、「A君は悪い人だ」と「A君はいい人だ」という対立する意見があるとします。そこで、弁証法では2つの対立する意見から、「A君は悪い面もあるが、いい面もあるよ」という意見を導くことができます。
このように、ある概念に対して、対立を統一して、より高い次元へと導く手法が弁証法です。これは、自然と私たちが日常的に行っていることでもありますが、議論に関しては、これを使いこなすためにロジカルな思考力を必要とします。
以上、「議論の目的」を3つの観点から説明しました。
議論は決してぶつかり合いではなく、「対立を乗り越える過程」であることが理解できると思います。では次の項目で、論理学の知識から、建設的な議論をするための心構えを学んでいきましょう。
議論をするための論理学的心構え
議論においては、以下で紹介する3つの論理展開に注意する必要があります。
(1)「二分法」対策
「二分法」とは、ものごとを二つに分けて考える論理展開です。
たとえば、さきほどのA君に対して「A君は悪い人だ」と「A君はいい人だ」と両極端で考えてしまうことは、二分法にあたります。本来であれば、「どこがどのように悪いのか?」「改善すべきところはどこか?」というところこそ議論しなければならないはずなのに、「悪い」「いい」の一点張りで、話が遅々として進みません。
このような安易な二分法に対しては、以下の2点の対策が必要です。
1.中間をとったらどうなるか?
2.開き直ったらどうなるか?
(「どちらでもないのではないか?」と考えること)
(2)「相殺法」対策
「相殺法」とは、一見その考えを認めながらも、足元をすくうような意見を述べる論理展開です。
たとえば、「A君はいい人だ」という意見に対して、「でも、A君はこの間、私が怒られていたときに助けてくれなかったよ」という意見が出された場合、「A君の良さ」を「助けてくれなかった」という意見で相殺しよう(±0にしてしまおう)とすることです。
このような相殺法は、一見正しいように見えますが、以下の項目に注意しましょう。
1.相殺される事柄のバランスが取れているか?
2.バランスの取れていない部分のどこが重要な違いか?
(3)「消去法」対策
「消去法」とは、探偵もののドラマや、小説の「犯人探し」のようなもの。あることがらに関して、「当てはまらないもの」を順に除外していき、残ったものを「結論」とする論理展開です。
たとえば、A君、B君、C君がいます。A、B、C君はそれぞれ世間から「悪い人」といわれていますが、「一番悪い人はだれか?」を探す場合を考えます。この場合、「窃盗したことがある人」を経歴で暴き、C君だけが除外されました。
そのあと、「殺人を犯したことがある人」の経歴を暴き、B君は除外されました。よって、「A君が一番悪い」となります。
この場合も、「残った人が悪いに決まっている!」と思いそうなものですが、議論の場合は、以下の項目に気を付けましょう。
1.消去の仕方が「雑」かどうか(そのほかにも考慮すべきことがあるのではないか?)
2.結論は受け入れられるか(「そもそも悪いとはなんだろう?」)
「議論上手」は「場数」と「心構え」にあり!
今回は、議論とはそもそもどのようなものかを考え、そのうえで「論理学的」な議論の心構えをご紹介しました。
今回学んだことはどれも実際の議論の場で役立つもので、「建設的な議論」を展開するために不可欠な知識です。しかし、知識だけではなく、議論を上手くこなすためには、一定程度の場数が必要です。
今回の知見を活かし、「議論」に積極的にコミットしていきましょう。建設的な議論は、あなたのシゴトと生活にさらなる面白みを与えてくれます。
参考文献:『詭弁論理学』野崎昭弘著、中公新書