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選択する「4つの判断基準」
では、「ベンチャーと大手のどちらを選ぶべきか?」を考える際に基準となる項目を、これまでの知見を踏まえてご紹介していきます。キーワードは、4つです。
(1)「伝統と革新」
CDAの今野さんは「ベンチャーと大手」の違いについて、このように説明します。
「大手とベンチャーの違いを一言で表すのであれば『伝統と革新』になります。大手は、モノの売り方や作り方の基礎を作り、その基礎を革新させたのがベンチャー、ということです。ただ、大手も昔はベンチャーだったということは変わらない事実です。今の学生が「大手か、ベンチャーか?」と悩んでいる理由は「伝統と革新」の両方に魅力を感じているからなんですね。」
”大手も昔はベンチャーだった”この言葉が示すように、もともと革新をもたらしたものも、時間が経てば伝統として浸透し、それを超える革新がもたらされるのは、歴史や社会の動向をみると必然的なものであるとも言えます。
ここで考えるべきポイントは、「伝統と革新」です。
(大手)伝統
先達が築いてきた理念やシゴトをもっと社会に広めるための働き方(ベンチャー)革新
時代や市場から求められる”新しいもの”を作っていく働き方
(2)「協調性と自発性」
今野さんは、こう語ります。
「組織が大きくなればなるほどセクションごとの業務になっていきます。小さい組織で
あればあるほど、一人で担当する業務の幅は広い、ということになります。」
さきほど、大手の特徴として「1.大きな組織内での協働が求められる」を挙げました。組織が大きくなるにつれて、セクションごとに業務は専門化し、セクション間や、セクション内での「協調性」が重要になる、ということです。
また、ベンチャーの特徴として、「1.組織が小さいため、個人が担当する業務に幅がある」ということも、さきほど挙げた通りです。これは、組織の中において、多くの職務経験を得るための「自発性」が大切であることを指します。
その両方の特徴をとらえたうえで、ただ単純に「様々な業務か、専門的な業務か」という違いだけではなく、以下の点に注意する必要があります。
(大手)協調性
調整とコミュニケーションによって、組織全体としての目標達成を目指す(ベンチャー)自発性
小規模の組織やプロジェクトチーム内で、自発的に新たな提案を考え実行する
(3)「既知と新規」
大手企業は、すでに大きなマーケットシェアとブランディングされた商品・サービスを持っている場合がほとんど。また、その商品・サービスの安定的な流通や、販促ルートも確保しています。大手では、「既知の商品・サービス」を、いかに提案力で”売る”ことができるかという視点を持つことや、そのために必要な準備、施策を実行していくことが必要です。
一方、ベンチャー企業では、ソーシャルインパクトをもたらす新技術やアイディアの具現化により、新たなニーズを引き出して、新規市場を開拓する役割を担います。よって、ベンチャー企業の組織ではたらくことは、アイディアの具現化から市場への販売まですべてに関わるということになるのです。
誤解を恐れずに言えば、大手では「既知の商品・サービス」、ベンチャーでは「新規の商品・サービス」を、それぞれどういう形で社会にもたらすのかを考え実行する、と特徴づけることができますね。
(大手)既知の商品・サービス
ブランド化されている商品・サービスを「提案力」を駆使して広める(ベンチャー)新規の商品・サービス
全く新しい価値をもたらす商品・サービスを創造し、広める
(4)「内部資源と外部資源」
大手企業は、内部資源(ノウハウや人材、専門的な技術など)が豊富であるため、組織に所属すれば、その資源を活用した職務をおこなうことができます。大規模な予算、膨大なナレッジ(知識)を組織からどのように引き出し活用するか、という部分が大変重要になります。
一方、ベンチャー企業では、特定の分野に関するナレッジが蓄積されつつあるものの、人的資源や様々な内部資源の観点から見れば大手よりも選択肢が限られます。組織の個々人の人脈やナレッジの蓄積と共有、「創造力(クリエイティビティ)」がカギを握るといえます。
(大手)内部資源を活用する
すでに組織内部に積み重なっている資源を活用することができる(ベンチャー)外部から資源を確保する
革新的なアイディアをもとに、外部から資源を確保することができる
以上、4つの判断基準となる項目を紹介しました。あなたは、どちらの環境ではたらきたいでしょうか?キャリア選択には”絶対正しい”ものはありませんが、この判断基準を押さえておくことで、自分自身の選択に自信を持つことができるでしょう。
大手の「規模」を選ぶか、ベンチャーの「時間」を選ぶか?
大手企業は組織の規模が大きいため、セクションごとに人員が割り当てられます。よって、従事する業務は「組織全体の一部分」になるということは、すでに解説してきた通りです。
大手企業は、すでに「大手」となるレベルのシェアとブランド、そして規模を誇り、その分「規模的に大きな環境」でキャリアを積むことができます。
ベンチャー企業では、従来の商品・サービスの売り方を革新するアイディアを持つ(あるいは目指す)組織であるために、既知のブランド力はありません。
しかし、組織内の一人ひとりが幅広い業務を担い、新規市場開拓と従来の価値観を確信していく行動が求められる点において、「時間的に効率的な環境」でキャリアを積むことができます。
要するに、大手企業では「規模的な恩恵」を受けることができますし、ベンチャー企業では「時間的な恩恵」を得ることができるのです。
今野さんはこう語ります。
「今の学生が『大手か、ベンチャーか?』と悩んでいる理由は「伝統と革新」の両方
に魅力を感じているからなんですね。ただし、ベンチャーといえど「大手ベンチャー」
に限る、という話にはなってしまっていますね。」
「大手か、ベンチャーか」 就職者、転職者にとって最大の選択肢ともいえる問いです。しかし、本当に大事なのは、「どこでキャリアを積むのがいいか?」ではなく、「どんな環境でキャリアを積みたいのか?」を考えることです。
見切り発車ではなく、しっかりと「大手とベンチャー」それぞれの特徴と違いをおさえ、自らのキャリア選択を自身で判断していく”責任感”こそが、現代社会を生き抜くビジネスパーソンの最も重要なスキルといえるのではないでしょうか。