ビジネスシーンでは、相手に何かを要求したり、協力したり、相手からの信頼関係を得たりするために「コミュニケーション」をする必要がある場面が、たくさんあります。
それはたとえば営業トークであったり、会議や打ち合わせの場であったり、社内や組織内での話し合いであったりと様々ですが、どれも欠かせないことは「相手の気持ちを理解(把握)して、いい結果を生むこと」でしょう。
しかし実際のビジネスシーンでは、「お互いの腹を探りあう」ような状況ばかりなのが現実です。それでも、お互いにいぶかることなく円滑なコミュニケーションと協働をするためには「相手の気持ちを理解する」ことが不可欠です。
そこで今回は、「相手の心理をうまく動かして、相手に自分を信頼してもらうための心理学テクニック」を紹介していきます。このテクニックを実際に使えるようになれば、具体的なビジネスシーンで、相手の心理を動かし協働できる環境を自ら創り出せるようになるでしょう。
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「心理学テクニック」を知る前の注意点!
「ビジネスの場で心理学テクニックを使う」というと、響きは確かに怪しいかもしれません。
心理学テクニックは、その応用性や組み合わせによっては非常に効果的に「心理操作」ができる可能性を秘めています。ビジネス本の中にも、そういった類の心理学テクニックの書籍はあります。
しかし、他の分野の「テクニック」もそうですが、そもそもテクニックというのはある程度熟練すればあとは個々人の使いようなのです。その人がどういった意図で、どのような目的でそのテクニックを使うかどうかという部分が実は最も大切なことです。
今回紹介するテクニックを実際にビジネスシーンで活かそうと考えている方は、そのテクニックを活用することは「達成したい目標」や「相手への敬意」へとつながっているかどうかを必ず念頭に置いておくべきだと言えます。
ビジネスで役立つ6つの心理学テクニック
ビジネスシーン(主にコミュニケーションの場)で活用できる心理学のテクニックをご紹介していきます。
(1)ラポールトーク
「ラポールトーク」とは、コミュニケーションをとる相手との「共感」にフォーカスした会話をすることで、相手との信頼関係を短い時間で構築するテクニックです。
皆さんも「地元や出身校が同じ」「部活が同じ」といった属性データが共通している間柄の人とは、初対面の人でもコミュニケーションをとるのが楽ですよね。この心理を活用するのです。
たとえば、「年齢」「出身地」「部活」「職種・業種」「悩み」「体験談」などを本題に入る前に会話中に入れることです。「アイスブレイク」にもなるので緊張をほぐす役割もあります。共通点を見つけて、それに対して共感することで、「この人と自分は似ているから、信頼に値するのではないか?」という感覚を相手に与えることができます。
しかし、注意点が一つ。共通点を見出そうと躍起になりすぎて、「無理に話を合わせないこと」に注意してください。これは、信頼を得ようとしても、逆に相手に不信感を与える原因になります。
(2)ミラーリング
「ミラーリング」とは、対面している相手の行動を「まねる」ことです。
自分と同じ所作をする相手に対しては、人は「親近感」を覚えます。自分と同じ趣味を持つ人には、親近感や好感を理由なしに持つことがありますが、それと同じ心理なのです。
たとえば、相手がテーブルの向こう側に座っているとします。相手がコーヒーカップを右手で持って飲んだら、こちらは左手で持って飲む。相手が右手を机にテーブルの上においていたら、こちらは左手をテーブルの上におく。というように、ただ純粋に「相手の行動をミラーリングする」だけです。それだけで相手はあなたに親近感を覚えるでしょう。
しかし、ここでも注意点があります。それは「真似をしている」と悟られないことです。悟られてしまっては元も子もありません。逆に「不信感」を持たれてしまいますし、ミラーリング自体を知っている可能性もあります。
簡単なコツとしては、動作を真似するときは「時間差をつける」ということ。見様見真似ですぐさま真似するのは難しいですが、時間を置いてからミラーリングを実践すると、比較的やりやすいでしょう。
(3)イエスバット法
「イエスバット法」とは、相手の意見を受け入れつつ、自分の見解を述べる話術になります。
それほど難しいことではなく、営業トークでは比較的なじみ深い話術の一つです。どうしてこの「イエスバット法」が営業で大事なのか? それは「相手にとって”不快だ”と思われること」が、営業や商談においては最も避けるべきことだからです。
「不快」と思われる要因の一つは、「自分の考えを否定されること」です。それを避けるためには、「イエスバット法」を活用します。
具体的には、「でも…」「しかし…」という否定形のことばを使わないこと。加えて、「確かにそれはおっしゃる通りだと思います。それに加えてもう一つの見方としては~」と自分の考えや見解を述べることです。
営業のみならず、様々なコミュニケーションにおいて必要な話術であるといえるでしょう。
(4)ピグマリオン効果
「ピグマリオン効果」とは
教育心理学における心理的行動の1つで、教師の期待によって学習者の成績が向上することである。(引用:「ピグマリオン効果-Wikipedia」)
教育心理学においては、教師が生徒、児童にかける期待によって成績が向上することをピグマリオン効果と呼びます。
ピグマリオン効果に関しては、有名なある実験があります。
「成績が優秀な生徒を集めたクラス」と「成績が悪い生徒を集めたクラス」のそれぞれの担任教師に、担任するクラスの成績を互いに下記のような「逆」の状態で伝えておきます。
成績が優秀な生徒を集めたクラス」の担任教師には、「あなたのクラスの成績は悪い」と伝えました。
「成績が悪い生徒を集めたクラス」の担任教師には、「あなたのクラスの成績はいい」と伝えました。
すると、成績が優秀な生徒を集めたクラスの担任教師は、生徒たちに「期待していない言動、態度」をとり、「成績が悪い生徒を集めたクラス」の担任教師は、「クラスの生徒は成績がいい」ことを前提として勉強を教えました。
結果は、おどろくべきものです。なんと、「成績が優秀な生徒を集めたクラス」の成績は下がり、「成績が悪い生徒を集めたクラス」の成績は向上したのです。
この実験から、「人は期待された通りの成果を出す傾向がある」ことがわかり、この効果を「ピグマリオン効果」と呼んだのです。
この実験からわかることは、以下の2点です。
1.人には、「期待」をかけることで能力や達成度を向上させることができる(傾向がある)
2.能力や達成度を向上させるためには、「適切な期待」を相手にかける(持つ)必要がある
あなたが部下や仲間を抱える立場にいる場合は、まずは「適切な期待」をかけることが大切です。人は、期待されることで、能力や達成度を向上させることができるのです。
(5)ロミオとジュリエット効果
「ロミオとジュリエット」の話を知らない人はいないでしょう。 端的に言ってしまえば、「男女二人の苦難と愛」を描いたシェイクスピアの戯曲の一つです。
そして、「ロミオとジュリエット効果」とは、その戯曲にちなみ「目標達成のために高いハードルがあることで、『達成しようとする意欲』が増す」という効果です。恋愛を持続させるコツとしてよく紹介される心理学テクニックであるといえます。
もし何かに向かって一丸となって何かに取り組む必要がある場合は、「高いハードル」を設けて、仲間とそれを乗り越えるべく創意工夫をすることが重要です。
そのためには、「目標設定」が大切でしょう。「ロミオとジュリエット効果」を引き出すためには、「目標設定」が大切です。まずは、ビジネスで協働する相手と共通の「目標設定」をしましょう。
参考記事:目標設定サボってませんか?目標設定のための2つの方法
(6)ザイオンス効果
「ザイオンス効果」とは、「何度も接触を重ねた相手に好感を持つようになる」効果のこと。
たとえば恋愛では「単純接触効果」としてよく話題になります。会えば会った分だけ、その人を段々と好きになる…という心理効果です。
CMにしても、営業にしても、日々のコミュニケーションにしても…何度も繰り返し「接触する」「会う」ことで、相手は心理的に「好感」を抱くようになるでしょう。
いちばん大切なのは「無意識に近い状態で」実践すること!
今回は、「ビジネスシーンで役に立つ心理学テクニック」と題して6つのテクニックを紹介しました。
どれもビジネスシーンで活用、応用できるものです。これらを知ったあなたは、あとは現場で”実践あるのみ”でしょう。しかし、一度や二度試しただけでは効果を実感することは不可能でしょう。
たとえばミラーリングは、「相手に悟られないように」する必要がありますし、ザイオンス効果を実践するためには、「しつこい」と思われないように気を付けながら何度も「会う」「接触する」必要があります。
心理学テクニックをマスターするためには、”無意識に近い状態”で、これらのテクニックを実践できるように覚えることです。また、小手先のやり方だけではなく、「相手に対する配慮」や「使うべきところ」をきちんと判断することも大切ですね。